剃毛プレイですか? 兵長!

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『……夕飯が終わったら、部屋に来い』

あれは、受け入れて貰えたということなんだろうか。
オレの想いを。気持ちを。「抱かせてください」と、直球で投げたお願いを。
きっと……きっとそうだよな。洗って来いって言ってたし。
部屋に戻るまでの道は、浮かれすぎてどうやって帰ったか覚えていない。

戻ってからは、夕飯前にシャワーを浴びて、食べた後も入って、これ以上ないっていうくらいに身体中を擦って洗った。
足の裏から爪先から、頭のてっぺんまで、本当に全部をすみずみまで。特に兵長に言われた部分は、擦りすぎて血が出るくらいに念入りに洗った。
ピッカピカだ。つるつるだ。これなら絶対に大丈夫だ。
鏡に映った自分の姿を確認して、よし、と洗いたてのシャツを素肌に羽織る。誰にも見つからないように部屋を抜け出して、兵長のいる部屋へと走った。

「兵長! 遅くなりまし……」

…………??
部屋には、白いマスクとエプロンをした兵長が、ベッドの上に白いタオルを広げていた。
また、掃除かな。こんな時間だけど。
「オレもお手伝いしましょうか」と声を掛ける。そうしたら兵長は、ゆっくりと首を振って手に持っているものをオレに見せた。
左手に持っているものは、消毒液だった。右手にあるものは……。

「……なんですか、それ。兵長」
「エタノールだ」
「反対の手です……剃刀? ですか? 一体何に……」
「決まっているだろう。お前の下の毛を削ぎ落す」
「削ぎ……ッ?」
「毛を、だ」

マスクをしたリヴァイ兵士長は、そう言ってぎらっと銀色の剃刀を掲げた。





「き、綺麗に洗ってきました!」
「うるせえな。とっとと脱げ」
「何で剃らなきゃだめなんですか……!」

兵長の手がオレのズボンを引っ張って、無理やりに下ろそうとする。オレはその手を必死に掴んで、ぶんぶんと頭を振って抵抗した。

「や……っやめてください……! オレようやく生えそろってきたんですよ〜……っ」
「またすぐに伸びるだろうが」
「風呂の時とか、からかわれるんですよ!」

両手で肩を押して、ぎぎっと力比べのように押し返す。そうは言っても、オレが兵長に勝てるはずがない。すぐに手は外されて、身体をベッドの上に放り投げられた。
仰向けに倒された身体の上に、兵長が馬乗りに乗り上げてくる。下から見る兵長の顔はトラウマだ。出会った時の思い出が蘇るし、何より怖い。

「前を開けろ」
「ど……どうしても剃らないとだめですか」
「当たり前だろうが……」
「……わかりました……」

顔が超怖え。
般若みたいな顔をした兵長に、これはだめだと思って心の中で覚悟を決めた。
兵長は、とっても綺麗好きだ。
部屋も、自分も、自分に触れるもの全部。制服は出来る限り毎日洗うし、自分が乗る馬もいつもせっせと磨いている。放っておくといつも何かを片付けている。汚れに親でも殺されたんだろうか。そう思ってしまうくらいに、色んな汚れに敏感な人だった。
――でも、まさか、下の毛までも憎んでいるとは。
「不衛生だろうが」と舌打ちする兵長に、ハイ、と返事をしてから自分のズボンのボタンに手を掛けた。
ようやくジャンたちに馬鹿にされないようになると思ったのに……。
うう、と思いながらジッパーを下げて、そこで、はっとして顔を上げた。

「あの……自分で剃ってきます」
「信用ならねえ。俺がやる」
「恥ずかしいです」
「いいからとっとと前開けろ」

またも、兵長の額に青筋が浮かぶ。こういう時の兵長には、逆らっちゃだめだ。
経験と本能で勉強したことを思い出して、泣きそうになりながらズボンを脱いで、履いている下着を下ろして足を閉じた。
兵長は特に何も言わず、ただじっとオレの股間を見てから、机の上に置いてあるカップを取った。
恥ずかしさで死にたい。
思ったんだけど、この人、綺麗好きっていうよりも汚いものを綺麗にするのが好きなんじゃないだろうか。散らかった部屋や汚れた部分を見ると青筋を途端に青筋を立てるけど、その後はぷりぷりしながらも全部自分でぴかぴかにしてる。
下着を下ろした心もとない格好のまま、兵長の手元を見る。兵長は、カップに刷毛のようなもので、何か白いものを泡立てていた。

「……それ、なんですか。兵長」
「髭剃る時に使う泡だ。こっちに使っても別に問題ねえだろう」
「あ……兵長、髭とか生えるんですね」
「……当たり前だろうが。お前といくつ離れてると思ってやがる。クソガキ」

静かに言う兵長に、そっか、と思いながら手なれたような光景を見る。
充分に泡が立ったのか、兵長は剃刀と泡立てたカップを持ってオレの足の間に跪いた。

「洗ってあるんだろうな」
「はい……」
「足広げろ」

ベッドの上にタオルを広げてもらって、その上でそろそろと片膝を立てた。
電気は点けっぱなしだし、部屋は静かだし、めちゃくちゃ恥ずかしい。ていうか、何やってんだ、オレ。
クリームみたいに角の立った白い泡が、足の間に塗られていく。柔らかい刷毛が肌に当たって、少しくすぐったかった。

「く……くすぐったいです」
「動いたらこっちも削ぎ落すぞ」

ショリ、という音を立てて、寝かせた剃刀が肌の上を滑っていく。太腿の付け根に置かれた指が温かい。それも結構くすぐったい。大事な部分に当てられている剃刀は、不思議と怖いとは思わなかった。
切れ長の目が真剣に手元の剃刀を見ている。上から兵長を見下ろすのは慣れているけど(身長差的に)、こんなに近くで見たのは初めてだ。
……ああ、兵長ってやっぱり整った顔してるんだな。
いつも怖すぎてしっかり見れたことなかったけど、みんなが噂するはずだ。兵長は顔もかっこいいって。
思わずじっと見てしまう。
オレよりも倍も歳が上なのに、顔も、手も、オレより小さい。指は骨ばった男の人のものだけど。
オレがずっと憧れていた仕事に就いてる人。強くて、怖いけど優しい、好きな人。その人が、オレの足の間にいる。

(……いやいや、おかしいだろ。なんでオレも兵長に下の毛なんて剃らせてるんだよ)

改めて今の状態に不自然さを感じながらも、真剣な目でまっすぐオレのそこを見ている兵長に、背中が鳥肌立ってぞわぞわした。

「……おい、エレン」
「は、はい」
「勃たせるな」
「……無理です……」

思わず両手で顔を覆って目を瞑った。
だめだ、見てたら何かおかしくなる。夜に一人で自分でする時、何度か兵長の顔を思い出してしたことはあるけど、こんなの考えたことなかった。
こんなことでドキドキするなんて。オレ、変態なのかもしれません。兵長。
湯気が出そうな顔を覆ったままで足を広げて、それからはただ早く終わってくれ、と心の中で訴えた。

「終わったぞ」

カタン、と剃刀を置く音が聞こえて、その後にタオルで足の間を拭われた。
ありがとうございます、と言って、慌てて足を閉じて後ろを向く。胡坐をかいてそこを見ると、一昨年くらいまでの懐かしい自分の姿があった。
ああ……つるつるだ。すっげえ。さすが兵長だ……。
せっかく生えてきたのにな……。
少ししょんぼりしながらすべすべしたそこを撫でて、息を吐いた。
兵長は部屋の中にあるシンクでカップと刷毛を洗いながら、「衛生的にも定期的に剃れ」とオレに言った。

「……もしかして、兵長も剃ってるんですか」
「……あ?」
「その、し、下の毛です」
「毎日じゃねえけどな……そのままにしておくのは好きじゃない」

兵長が、自分でここの毛を。
一気に中途半端に勃っていたオレのが元気になった。兵長が、うおっ、と言って眉を顰めた。
下半身を丸出しにしたままでベッドの上でごくっと唾を飲む。

「み……見せて頂くことは……」
「……見ることは構わねえけどよ……それよかエレン。お前、俺を抱くんだろうが」
「…………ッ」
「見ないで抱くつもりか」

兵長が呆れたようにオレを見る。その顔が、ほんの少しだけ笑っているようにも見えた。
濡れた手をタオルで拭いた兵長が、ベッドに戻ってきてオレの隣に腰掛ける。ドキドキしながら近づいて、白い顔に手を伸ばした。
さ……触ってもいいんだろうか。いいんだよな。指先が触れるか触れないかの所で、切れ長の目がオレを見上げる。思わず手を止めてしまうと、兵長が小さな声でぼそっと言った。

「あとな……言っておくが、楽しいことはねえと思うぞ」
「……はい?」
「不感症、らしいからな。俺は」

……どういう意味だろう、それは。初めて聞く言葉に心の中で頭を捻りながら、「わかりました」と言って頭を下げた。

「が……頑張ります」
「まあ、好きにしろ」

兵長が、オレの手を掴んで自分の頬に触れさせる。
合わせられた目にどうやって答えたらいいのかわからないまま、「電気、少し暗くしてもいいですか」と上ずった声で尋ねた。


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