祝・貫通

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傷の手当てに使う軟膏を指に馴染ませて、兵長の尻の間に滑りこませる。
兵長はオレに仰向けのまま足を開いた状態で、片方の膝を立てていた。厚い胸板が上下して、浅い呼吸が聞こえる。
ごくっと喉を鳴らしてから、中指の第一関節をゆっくりと中に埋めていった。
「…………ッ」
「い……痛いですか」
「……っ……痛くはねえけどよ……気持ち悪ぃ……」
「すみません」
軟膏の滑りを借りた指はスムーズで、中指はどんどん兵長のお尻の中に入っていく。兵長はぎゅっと目を瞑って、大きく深い息を吐いた。オレが顔を見ていることがわかると、片腕で自分の顔を覆ってしまう。顔が見たいけど、腕を退かして欲しいなんて頼んだら殴られそうだ。オレも全然余裕がない。一度指を抜いて軟膏の量を増やして、更にそこに塗りつける。
滑りのよくなった中指がずずっと根元まで入って、兵長の背中が仰け反った。
「……ッは……っ」
シーツを掴んでいる手に力が入って、ぎゅっとシーツが手繰り寄せられる。見ているだけでどうにかなりそうだ。荒くなってる呼吸を隠すことができず、夢中で指で兵長の中を掻き混ぜた。
入口が狭くて、中がぬるぬるしてる。ものすごく熱い。こんな所に、入ることができるんだろうか。指を二本に増やして、ゆっくりと様子を見ながら埋めていく。
(切れたりしないかな……)
ドキドキしながら指を動かして、中を引っ掻くように掻き混ぜる。
兵長が、はあっ、と大きく息を吐いて薄眼を開けてオレを見た。
「……内臓……」
「……え?」
「内臓、触られてるみてえだ……」
掠れた声に、下半身がずくんっと疼いた。見たことのない表情と、声と、仕草に、そのまま射精するかと思った。ぶるっと頭を振って、入れている指を開いて中を広げる。
だめだ、このままじゃこれでイっちまう。まだ何にもしてないのに。
目元を腕で隠している兵長の手を退かして、片手でぐいっと足を広げた。片足を自分の肩に担ぎあげて、腰の位置を確認する。そのまま、兵長の身体の覆いかぶさるようにぎしっとベッドを鳴らして体重をかけた。
「……っ失礼します」
自分でも、息がひどく荒いのが分かる。
血は頭に上ってるのか、下半身に集中しているのか、もうわからない。ものすごい勢いで身体中を巡ってる。
はぁ、はぁ、と整わない呼吸のままで兵長の足を更に開いて、そこに自分の腰を押し当てる。性器の先端をぐっと押し込むと、兵長の身体が硬く固まった。
「……――ッ……!」
「……っぅ、あ……っ」
「痛……ッぅ……!」
兵長の身体が強張って、背中が思い切り仰け反る。埋め込んだ性器は強い力で阻まれて、なかなか進まない。目を顰めて腰に力を入れると、挿れている性器に激痛が走った。
「……痛た、痛い、へいちょ……っ」
「……ッ俺のが、お前の何倍もいてえよ……!」
千切られそうだ。
入れた部分が万力みたいに締めつけられて、前にも後ろにも動けない。
「ち……力、抜けませんか……!」
「抜けるか、クソ、……ッいいから、一度抜けっ」
「い、いやです、せっかく入ったのに……っ」
ふーふーと呼吸を荒げて、掴んでいる太腿を更に開く。息を吐いて腰を進めると、締めつける力は更に強くなった。
「いッ……!」
……ってぇ……!
あまりの痛さに、そのまま崩れ落ちそうになる。兵長も相当痛いんだろう。オレみたいに情けない声は出さないけど、青筋の立ってる額に脂汗が浮いてる。
セックスって、こんなに痛いのか。二人とも。気持ちのいいだけのものかと思ってた。
肩で呼吸をしながら、一度腰の動きを止めて、兵長の頭の横に両手をついた。
「な……慣れるまで、少しこうしていていいですか……」
「……っ……そうだな……」
お互いに動物みたいな息使いで、ぜいぜいと胸を上下させる。
オレは兵長の足の間に、兵長はオレを足の間に挟んだままだ。誰かに見られたら、多分このまま殺される。兵長に。
兵長が、大きく息を吐いて目を瞑る。引きしまった胸板に手の平を当てると、ものすごい速さで心臓が動いていた。
変な感じだ。オレが今、こうして兵長の胸に手を当ててるなんて。
ずっと憧れていた人の近くで働くことができることも考えられなかったのに、同じベッドで、こんなことをしてるなんて。
耳元で、兵長の乱れた呼吸が聞こえる。この呼吸も、オレが乱れさせてるんだ。そう思ったら、落ちつこうとしていた心臓がまたうるさく鳴り始めた。
身体が慣れたのか、兵長の力が緩んだのか、中の締めつけが少しだけ緩くなった。浅い息を整えて、足を抱え直してぐいっと腰を進める。相変わらずきつくはあったけど、動けない程ではもうなかった。
「う、動きますっ……」
ベッドについている膝に力を入れて、体重をぐっと前にかける。埋まっていなかった部分の性器が根元まで押し入って、腰と腰がぶつかった。兵長が息を止めるより先に、性器を抜いてまた奥に叩きつける。誰かに教えられたことでもないのに、身体は勝手に動いて気持ちのいい部分を探していった。
「……ぅ、あッ、急に……っ」
「あ、……っあ、兵長、兵長」
「はぁ、……っは、ぁ、う……ッ」
「へいちょう……っ」
熱い。腰から下が、熱くて全部溶けそうだ。動く腰が止まらない。
やばい、やばい。気持ちいい。
すげえ、なんだこれ。
歯を食いしばって、本能のままに身体を揺さぶる。その度に兵長の身体が上にずり上がって、強く腰を引き寄せた。
「っ兵長、気持ちいい、……ッぁ、あっ、兵長っ」
「クッソ……ッてめ、がっつくんじゃね……っ一度止まれ、やめっ……」
「無理です、ムリ、……ッぅあ、あっ」
はあっ、と大きく息をついて、兵長の身体の上に圧し掛かる。身体は自分が動きやすい姿勢を無意識のうちに探していて、もう自制なんてきかなかった。
硬いベッドのスプリングの音が、ぎしぎしうるさい。オレの声も。息も。どうやって抑えればいいのかがわからなくて、兵長の肩のあたりに噛みついた。
「止まれ……って、言ってんだろ……っ」
兵長が低く呻いて、下からオレの身体を引き剥がす。そのまま逃げようとする身体を渾身の力で押し篭めて、顰められた瞳に目を合わせた。
「に……逃げないでください、兵長……顔見たい……」
肩に爪がめり込むほどの力で、細い身体をベッドに押し付ける。そのまま全体重を繋がっている所に乗せて、思い切り腰を打ちつけた。兵長が舌打ちをして、オレの腕のあたりに爪を立てる。その刺激すらも気持ち良くて、あとはひたすらに自分の気持ちよさだけのためにがつがつ動いた。
「っぅ、あっ、……ッくそ、ったれ……!」
「兵長、好きです、好き、……ッは、あっ、好きです……っ!」
射精の瞬間は、頭が真っ白になってもうよくわからなかった。
出す瞬間に、「中で出すな!」と思い切り殴られたところまでは覚えてる。もちろん、オレにそんな知識がある訳もなく、外に出すとかそんなこと間に合うわけもなく……。気付いたら、兵長の腰をがっちりと掴んで、中に思いっきりぶちまけていた。
兵長は涙の乗った目をまん丸くしたまま、ぜいぜい言いながらオレを見ていて、オレはそれを見ながら、どさっと兵長の身体の上に崩れ落ちた。

「……おい、エレン……」
「……はい……」
「……どけ……そして抜け」
「だめです……力が入りません……」
「気持ち悪ぃんだよ、ケツの中が」
背中を引っかかれたあとに、ぎゅっと引っ張って抓られる。わかりました、と言って腰を浮かせて、目を顰めて自分の性器を引き抜いた。性器はまだ硬いままで、抜く瞬間はぞくぞくと鳥肌が止まらなかった。お互いに、はあっ、と大きく息を吐いて、もう一度兵長の身体の上に倒れ込む。すぐに頭を殴られて、前髪を思い切り引っ張られた。
「い、痛い、痛いです……」
「身体拭け。気持ち悪ぃ……」
「はい……」
うつ伏せで息を吐く兵長に、よろよろしながら乾いたタオルに手を伸ばす。膝と腰がガクガクだ。腕にも力が入らない。
なんとか手拭いを掴んでから、失礼します、と声をかけて、右手から体を拭き始めた。兵長は黙ったままで、オレが体を拭くのをじっと見ていた。
すっげえ気持ち良かった……最初はめちゃくちゃ痛かったけど、一人でするのとは比べ物にならないくらいに気持ち良かった。
大人の人たちが好きなはずだ。セックスって。
「……兵長、いきました?」
「……あ?」
「気持ち良かったですか?」
「……いいわけねえだろ。クソ痛かっただけだ」
「……そうですか……そうですよね」
しゅん、と頭を下げて唇を尖らす。
してる最中も、兵長のものは全然勃たずにしんとしていた。今もそれは力なく横に萎れている。
そろりと触ってみると、「触んな」と頭を殴られた。
「だから言ったろ。面白くねえって」
「そんなことないですよ。ただ、オレばっかり気持ち良くて……」
「まったくだ。人のケツも考えねえで盛ったイヌみたいにガンガンガンガン……」
「す……すみません」
思わず顔が熱くなる。初めてだってことを抜きにしたって、多分色々ひどすぎた。大人の人って、ああいう自分の気持ち良さもコントロールできるんだろうか。
兵長の手が、オレの前髪に触れる。殴られる、と思って構えていると、それを少し引っ張られた。
「……でも、まあ」
「…………」
「悪くなかった」
目と目が合わせられる。髪を弄る手は、ぽんぽん、と頭を叩く仕草に変わった。一気に目の前がぱぁっと明るくなる。兵長、と身体を起こして、思わずその場に正座した。
「オレ、もっと頑張って、次は兵長をいかせてみせます」
「……まあ、期待しないで待っとくかな……って、おい、次ってなんだ。またやるのか」
「え? だめですか……?」
眉を寄せる兵長に、張り切った声が思わず沈む。
そうか、今回だけか。まあ、そうだよな、そりゃそうか。
しゅんとしたままで兵長の身体を拭くのを再開させる。すると、兵長が、ゆっくりと瞬きをしてから、オレの方をじっと見て言った。
「……気が向いたらな」
「…………」
――ああ、やっぱり、オレ、この人のことが好きだなあ。
強くて、厳しくて、でもすごく優しい。一つ一つの行動に、いいように転がされてしまっている自分が心地いい。
小さく欠伸をした兵長が、「このまま寝る」とオレに背中を向けて目を瞑った。
オレは、「はい」と頷いて、小さくても広い背中に腕を回した。



おまけ


「……あの、いつまた気が向いてくれますか」
「さあな……お前、さっさとシーツ変えて自分の部屋帰れよ」
「えっ、このまま一緒に寝……」
「調子に乗るな、クソガキ」
「……はい……」

多分、オレは兵長のこういう所も好きなんだと思う。
つくづく、兵長の躾ってすげえなあ。
後ろ足で蹴られても何だか嬉しい自分の調教されぶりに少し笑って、替えのシーツを取りに行こうと身体を起こした。


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